Interview

瀧下
職種:開発・設計
部門:電子システム部門
専攻:工学部 情報エレクトロニクス学科
ゲームづくりの技術で、自動運転の進化を加速
私は、ADAS(先進運転支援システム)開発における仮想環境プロジェクトを担当しています。手がけているのは、自動運転機能に必要な“認知”・“判断”・“操作”のうち、“認知”領域である、クルマが周囲を正しく見るための性能を確かめるツールの開発です。
クルマの検証と聞くと、実際にテストコースを走らせる姿をイメージする方が多いかもしれません。事実、これまでの検証方法としては実車でテストコースを走行し必要なデータを収集することが一般的でしたが、時間やコストが膨大にかかるだけでなく、危険なシーンは意図して再現することが難しいという大きな課題がありました。特に“認知”領域では、光や天候のわずかな変化が性能に影響するため、細かな条件まですべて同一の状態で再現することが求められます。
こうした環境条件を実車テストで意図して揃えることは非現実的で、検証の幅にも限界があったのです。
そこでデンソーでは、開発スピードと検証品質を両立する手段としてゲームづくりの技術を用いた仮想環境の活用をしています。安全安心が求められるクルマの開発で、 “ゲーム”というワードは意外かもしれません。しかし、少し柔軟に考えてみると仮想環境の構築はまさにゲームエンジンの得意分野です。
私たちが使用しているゲームエンジン『Unreal Engine』は、3Dのリアルな描写に特に長けていて、逆光、夜間の反射、雨天時の視界変化など、実車では狙って再現しにくいシーンも仮想環境内で簡単に構築することができます。「危険だからこそ再現したい」という環境は、実世界では当然危険を伴うため再現が難しいですが、仮想環境なら安全に再現することができ、非常に画期的な仕組みだと感じています。
現在は認知領域が中心ですが、ここで培った技術は、今後“判断”・“操作”といった領域にも広げていく予定です。将来の完全自動運転に向けた“技術の基盤づくり”に携わることができるのは、この仕事ならではの醍醐味。ADAS事業全体の開発効率向上や、ひいては自動車全体の安全性にも貢献できていることに、大きな意義を感じています。
プロジェクトの立ち上げ期から参画していますが、徐々に組織拡大していく中で私の役割も変わってきました。もともと実装中心でしたが、今では提案や運用の整備も担っています。「使わないスキルは衰えてしまう」という考えがあるため、担当範囲が広がっても実装から離れるつもりはありません。技術の土台を大切にしながら、上流から下流まで一貫して担える技術者を目指したいです。
初めてのことに挑戦できる楽しさを感じながら、技術を磨く
入社以来、仮想環境プロジェクトに携わっていますが、学生時代に取り組んでいたのは半導体レーザーの省電力化に関する研究です。ナノサイズの素子を自分たちでつくり、光や電子のふるまいを一つひとつ確かめながら、新たなデバイス開発を目指していました。そうした研究の中で学んだことは、試行錯誤をしながら事実を積み重ねて、理解を深めていくことの大切さです。
技術者にとって必要なスキルは、一足飛びには身に付きません。このため、基礎を大事にしながら、着実に技術を積み重ねていくことができる企業で働きたいと考えました。
そんな価値観にフィットしたのがデンソー。行動指針である『デンソースピリット』の中に、“品質第一”、“現地現物”という内容があり、まさに私が大切にしていた価値観だったのです。交通事故死亡者ゼロに向けて長年ADAS技術を磨いてきた歴史にも惹かれ、「技術を高めながら、社会課題に真正面から向き合える」と感じ入社を決めました。
ハードウェア寄りの研究をしていた学生時代とは打って変わって、仕事として進んだ道はハードウェアだけでなく、ソフトウェアにもまたがる領域です。プライベートでプログラミングを楽しんだことはあったものの、業務となると大きく勝手が違いました。特に苦労したのが、開発の進め方です。
ハードウェア研究では、しっかり下準備を整えてから着手することが基本でした。一方で、現在のソフトウェアの現場では、まずつくって動かし、不具合があれば原因を特定して直すというサイクルを高速で回すことが求められます。慣れるまでは大変でしたが、初めてのことにチャレンジし、徐々にできることが増えていく過程はとても面白かったです。
デンソーは、失敗を恐れず、まずは試してみるという姿勢を肯定するカルチャー。だからこそ、思いきって挑戦し、前に進むことができます。
新人の頃から一貫して技術と向き合う中で意識していることは、先輩たちに倣い“謙虚であること”。デンソーの技術者は高度な技術を持っていますが、誰もが年齢や役職に関係なく、周囲から学び続ける姿勢を持っているのです。自らの力を過信せず、柔軟な考えを持ち、素直に意見を聞き入れる。それが結果として品質の高さに繋がると感じているため、私も常に謙虚さを大切にしています。
新人の頃、とても助かったのが技術勉強会です。チームで毎週1時間かけ、開発に使用するゲームエンジンについてのレクチャーやノンゲーム領域での活用事例、他社動向など多様な観点から勉強会を実施してくれました。このおかげで、視野が格段に広がり、今でも業務に活かせていることがたくさんあります。勉強会は今でも続いており、後輩たちの育成にも大いに役立っています。
多様な視点でモノづくりに取り組むことができる環境が、大きな成果に繋がる
仮想環境プロジェクトは、社内外の多様な人との協働で成り立っています。その中で気付きを得たのは、立場が変わると、求めるものも大きく変わり得るということ。
たとえば、ある時、品質の優先度にギャップがあることが判明しました。
ゲームづくりは、没入感が求められる分野。協働している外部のゲーム会社が重視するのは、滑らかでリアルタイムに美しく描画できることです。一方で、ADASの認識機能を開発するチームは高精細な画質を強く求めていました。背景としては、検証に使用するものだからこそ、現実と同等レベルの視覚情報が最優先だという考えでした。
実現可能かつ、検証として機能し得る水準はどういったものなのか。その状況を整理するために、検証における用途別の精度水準を言語化するところから始めました。
どの程度の画質なら現実と同等と言えるのか、どれくらいの処理負荷までならリアルタイムを維持できるのか。仮説と検証を繰り返し、パラメーターを変えながらバランスの調整をしました。並行して、担当者にもヒアリングを実施。上司と連携を取りながら、誰がどの精度要件を持ち、どんなデータを判断材料にしているのかを丁寧に確認しました。
そんな中で、上司からある言葉をかけてもらったことを、よく覚えています。当時の私は、経験が浅く若手の立場。上司や他チームの技術者に対し、どうしても引け目を感じていました。そんな私に対し、上司が「技術でフラットに議論しよう」とよく声をかけてくれたのです。
これは、今も大切にしている言葉で、技術者としての私の姿勢を支える大きな指針になっています。最初は聞く側に回ることが多かった私も、根拠を示しながら意見を述べることができるようになり、プロジェクトが前進していきました。
関わる人たちが持つ背景をしっかり理解できると、「なぜその要求になるのか」や「本当に必要なラインはどこなのか」が見えてきたのです。これらの材料をもとに方針を議論しながら、最終的に双方が納得できる落としどころを実現することができました。
手応えのある成果物に仕上がったことで「社外に発表できる」と考え、2023年に開催されたゲーム業界のカンファレンス『CEDEC』に参加。異分野連携事例として、車載カメラを仮想環境で再現した取り組みを発表しました。ゲーム業界の方々に「皆さまの技術が自動車の安全領域でも活用されている」と知っていただけたこと、産業をまたぐ新しい連携の形を共有できたことで大きな達成感を味わえました。
仮想環境を全社の共通基盤にして、“未来の安全”を支えたい
年々、社内での仮想環境の需要は高まっていると感じます。私がメインで携わってきたのはカメラ領域でしたが、近年ではミリ波レーダーをはじめとする各種センサー領域においても、それぞれの特性に特化した仮想環境が生まれています。
それぞれの開発に最適化された環境があるのは良いことですが、一方で、同じような仕組みを別部署が一からつくり直してしまう二重開発や、知見が十分に共有されないという課題も見えてきました。こうした状況を踏まえ、より踏み込んだ形で課題解決に挑むべく、仮想環境に関わるメンバーが集まるワーキンググループを立ち上げました。
最初は上司を介して他部門の担当者と個別に話すところから始まりましたが、各チームが抱える課題やニーズが共通していることがわかり、部署を横断した組織を組成。現在は、部署ごとに独立していた仮想環境をどう連携させるか、どの機能を共通化できるかといった点を議論しています。
実際に、異なる仮想環境同士を繋いだ試作版の構築も進めています。プロトタイプとして関係者に共有したところ、「誰が・いつ・どのように使えるのかをもっと細かいマイルストーンとして設計してほしい」という前向きなフィードバックを得ることができ、実用化に向けた改善を行っています。
私たちが目指しているのは、仮想環境が社内の開発を横串で支える“共通基盤”になることです。デンソーは、ソフトウェアとハードウェアの両方を扱う会社。各種センサーのハードウェア側の情報にもアクセスしやすく、相談もしやすいため「やりたい」と思ったことは実現しやすいと感じます。
また、チームとしては最新技術の検討にも積極的に取り組んでいます。たとえば、画像から三次元モデルを生成する『NeRF』や『3D Gaussian Splatting』といった手法です。論文から情報をキャッチアップし、デンソーの開発現場でどう活用できるか実際に手を動かしながら模索しています。既存の技術にとらわれず、新しい技術を検討できることは技術者にとって学びの場にもなるため非常に刺激的です。
今後の目標は、“CGやAIなどの最新技術×安全技術”に強い技術者になること。デンソーでは、新しい挑戦を楽しみながら、経験の幅をいくらでも広げることができます。仮想環境を通じて“未来の安全”をつくっていく。そのやりがいを感じながら、これからも技術者として成長を続けたいです。
これから仲間になる方へ



















技術について語り合える、優秀な仲間がいる
デンソーは、現地現物主義で本質を大切にする文化が根づいています。だからこそ、年齢や立場にとらわれず、誰とでも技術についてとことん語り合える。
さらに、自らの領域でプロフェッショナルになるという思いが強い人ばかりです。
優秀な人たちと切磋琢磨できることは、技術者にとって大きな価値があると感じています。