森林を次の世代へつなげたい

井村 多加志Takashi Imura2011年キャリア入社
新事業推進室 所属

大学卒業後、半導体メーカーを経て、2011年デンソーにキャリア入社。パワーエレクトロニクスのエンジニアとして主にコンバーターやインバーターなどの回路開発に従事。2018年社内の事業創造プログラムへの参加を契機に、社内・社外を問わず多様なメンバーとの有志プロジェクトを展開。2022年現在は新事業推進室で森林のデータ化に取り組むとともに、兼業でも、仲間と起業した会社で森林の衛星計測を行っている。

06社員の実現したいこと

林業を営む家に生まれ、
曽祖父の代から受け継いだ森林。
台風によって被災したことを契機に
森林の未来について、
真剣に向き合い始めた。
森林×モビリティ技術
=脱炭素社会への貢献、
その新たな挑戦に挑む人が、
デンソーにいた。

なぜ、そう思うのか?

私の曽祖父が北海道開拓期に国有林の払い下げを受けて林業・製材業を営んだことにはじまり、我が家は代々約100haの森林を受け継いできた。しかし、2016年の台風(平成28年8月北海道豪雨)によってその森林が被災。そのことがきっかけで、私は日本の森林について真剣に考えるようになった。森林は、日本の国土面積の3分の2を占め、国土保全はもとより、水源かん養(森林が水資源を蓄え、育み、守っている働き)、CO2吸収などの多面的な機能を有している。しかし、関税撤廃などによる木材価格の低迷や、高齢化・後継者不足による労働力や管理意識の低下により、森林伐採や再造林(伐採後に新たに植林すること)などの、適切な管理がされない放置林が増えている。放置林は災害に弱く、さらにCO2吸収源としての機能も損なわれる。カーボンニュートラルを推進している日本にとっては、大きな課題である。

本来は循環可能な資源であり、CO2吸収源としても“宝の山”となるはずの森林。その姿を取り戻したいと考え、有志の仲間で始動したのが、森林を軸とした価値創出をめざす「宝の山プロジェクト」。自動車の技術を応用する形で、森林の適切な管理や新たな林業の提案、中山間地での豊かな生活の実現を目指し、試行錯誤をはじめた。有志プロジェクトとして業務外で取り組んでいたが、今では会社の新事業の1つのテーマとして組織化され、本業としてチャレンジできるまでに至っている。

私の曽祖父は、子や孫、未来の世代のことを思い、自ら伐採した山に再造林を行ったという。同様の思いで再造林を行った山主が多くいたことで、緑豊かな日本の国土はつくりあげられている。そんな祖先たちの思いを、森林を通じて引き継いでいきたい、次の世代につなげていきたいと思っている。 

なぜ、デンソーだったのか? どこに惹かれたのか?

祖父や父の影響で、機械や技術が好き、というのは大きくあった。林業を行っていた祖父は、山の中で連絡をとるための無線機の修理が得意で、楽しそうに機械いじりをしている姿を覚えている。また、父はクルマが好きで整備士をしていた。家業である林業はすでに廃業していたが、事業として残った個人商店を継ぐために、技術の仕事からは離れなければいけなかったが、それでも退職金で1980年代には珍しかったパソコンを高額で購入するような人だった。そんな祖父や父のもとで育った私は、物心がついたころから日常的に無線機や電子機器、パソコンに触れて育った。

大学では電子回路を専攻。卒業後は半導体メーカーのエンジニアとして働いた。入社して10年が経ち、クルマ好きだった父の死を契機に、将来の働き方について考えていたところ、たまたまデンソーの選考を受ける機会があった。その時、頭に浮かんだのは、家業のために好きなクルマの仕事から離れた父のこと。それまで培った技術で父の好きだったクルマの進化に貢献できるのではないかと考え、入社を決意した。

入社後は車載モータなどのパワーエレクトロニクス製品の回路開発に従事していたが、2018年の社内での事業構想・創造人材育成プログラム「DIVE(DENSO Innovative VEntures)」をきっかけに森林をテーマとした活動をスタート。自動車技術を掛け合わせた活動だったということもあり、有志活動ながら、会社が役員と議論する機会を設けてくれたり、兼業起業の後押しや行政に働きかけるきっかけを与えてくれたりした。個人が実現したいことにもそっと寄り添い、支援してくれる土壌がデンソーにあったからこそ、ここまで続けてこられたのだと思う。

今、そして、これから。何に注力していきたい?

今取り組んでいる事業のコアは、森林のデータ化。現在はヘリなどの上空からの計測がメインだが、その方法ではデータとして取り切れないものがある。そこで、デンソーならではの技術を生かし、森林の中でリアルなデータを取得することを考えた。具体的には、森林の中を小型モビリティが自動走行し、木々などの障害物にぶつからずにデータを計測できる技術。森林をデータ化できると、たとえば林業で使う重機を安全に自動運転させることが可能になり、それにより管理できる森林の範囲も増やすことができる。そういった森林管理業務の自動化が目標だが、そのためにはまずはデータ化。そこに注力していきたい。

また兼業側では、仲間と起業した会社で、衛星画像を用いた効率的な森林管理の実現に向けて取り組んでいる。こちらでは、地方自治体などから「宇宙ビジネス参入への取組み」や「ITや新しい技術を活用による地域課題の解決」といったテーマで講演の依頼や実証実験の機会が得られている。そうした越境体験も、新たなリレーションやパートナーを広げることにつながっている。

活動内容は多岐にわたるが、本業・兼業の両面で、次の世代へ森林をつなげていくためのチャレンジを続けていきたい。

働くなかで感じるデンソーの魅力は?

デンソーの社是の中に「和衷(わちゅう)」という言葉がある。和衷の「和」は、迎合するという意味ではなく、トコトンまで議論して結論を導くということ。議論の過程や結果に基づいて、心を一つにして何かを達成する、というマインドセットである。課題に対して「絶対に解決する」という意志で、職位や部署を超えて、粘り強く議論を行えるところが、デンソーらしさだと思う。

また、誰かが何かの実現のために動こうとしたとき、それを支え、助けようとする人が大勢いるのもデンソーならではの良さと思う。現活動のきっかけとなった有志活動においても、そこで知り合った100名以上の社内の協力者の存在が、私を支えてくれた。本当に多くの方たちが私たちの活動を助け、応援してくれたおかげで、組織化まで至ることが出来たと思っている。

社員がアメーバのように業務を超えてつながり、これほどの規模で協力しあえる企業を、私は未だ他に知らない。そして私は、そんなデンソーという“場”の潜在力を信じている。