両立期にも挑戦できる制度を目指して
中川
まずは、お2人が復職前後にどのような想いを抱えていたのか、リアルなお話を伺いたいと思います。市原さんは2025年に復職されたばかりで、長谷川さんも育児との両立が続いている時期ですよね。
長谷川
復職前には大きな不安はありませんでした。職場にはよく知るメンバーも多く、「時短勤務なら両立できるだろう」と、比較的ゆったり構えていたんです。ところが実際に育児との両立が始まると、「こんなに仕事を休まないといけないのか」と驚きました。毎年付与される有給休暇日数では足りず、家族の傷病時に利用できる『やすらぎ休暇』と組み合わせ、なんとか復職初年度を乗り切りました。
市原
私の場合は、断続的に休むような状況にはなりませんでしたが、子どもと夫が同時に体調を崩し、さらに仕事の繁忙期が重なったときは本当に大変でした。ベビーシッターを頼り、在宅勤務も活用しながら、限られた時間で効率良く業務を進める。両立の難しさを強く実感しました。
中川
やはり一番大変なのは、“休まざるを得ない”場面ですよね。私自身、経験してきたのでよく分かります。家族の状況は避けられないものですが、制度面にも課題がありました。かつての短時間勤務制度は、始業・終業の時刻が固定されており、当時、私が採用業務を担当していた頃は、イレギュラー対応が必要な場面も多く、時短勤務からフルタイム勤務に戻しました。「働きたいときに働けない」ということが、旧制度の大きな課題だったと思います。
市原
私もその点を難しく感じ、復職当初からフレックスタイム制が使えるフルタイム勤務を選びました。小さな子どもを育てながら、毎日同じ時間帯で働くのは、自分の家庭状況と照らし合わせて難しいと考えたんです。
中川
もともと両立支援制度は、“安心して休める環境”を整えることから始まりました。一方で、制約がある中でも「仕事も頑張りたい」という声に十分応えられていない部分があったんです。そこで、“キャリア支援”の視点も取り入れ、両立者の働き方のニーズに合った制度を検討した結果、生まれたのが“より柔軟に時間を使って働ける制度”でした。育児や介護を抱える“両立者”のみなさんが、仕事を制限されるのではなく、制約がある中でも活躍できる制度をつくりたい——まさに、市原さんや長谷川さんが感じていた課題を解決するための改定だったのです。
時間の制約がある人がキャリアアップしてこそ、組織の未来が変わる
長谷川
大切なのは、時間を柔軟かつ有効に使い、生産性を高めることだと思います。新制度はその点で大きな意味があります。私は早速フレックスタイム制を活用しています。私の場合は子どもがいると夕方以降は慌ただしくなるため、周囲のメンバーの状況を考慮した上で以前よりも早い時間に業務を開始し、落ち着いた時間帯に集中する日もあります。また、保育園の行事などで1時間だけ業務を抜けたいというときも助かっています。小さな調整ができるだけで、働きやすさは大きく変わると実感しています。
市原
私も、制度が今の形であれば時短勤務を選んでいたかもしれません。6時間勤務に加えて7時間勤務が選択できるようになったことは、多くの社員にとって大きな意味があると思います。
長谷川
実は、私も7時間勤務に切り替えました。6時間勤務ではどうしても「やり切れなかった」という思いが残る場面があったためです。7時間勤務であれば、フレックスや在宅勤務と組み合わせれば夕方も勤務できる日が増えますし、会議への出席機会もより増えます。会議で状況を把握し、作業に落とし込み、業務に区切りを付けられる。これはマネジメント観点でも有益です。新たに“中間”の選択肢を用意してくれたことは、本当にありがたいですね。
中川
成果という言葉が出ましたが、今「挑戦しやすいかどうか」は、長期的なキャリアにも大きく影響します。お2人は今後についてどのように考えていますか。
市原
入社以来、海外赴任には強い関心を持っています。同期がグローバルに活躍する姿を見ると自分もチャンスがあれば挑戦したいと思います。ただ、簡単な道ではないことも分かっているので、正直に言えば葛藤もあります。
中川
私の身近にも、お子さんを伴って海外赴任し、キャリアを広げた社員がいます。決して不可能ではありません。ぜひ実現し、次のロールモデルになっていただきたいですね。
長谷川
私もステップアップしたいという思いは強く持っています。ただ、育休取得以前に比べると迷いが生まれたのも事実です。
以前、同僚に率直に不安を打ち明けたことがありました。
そのとき言われたのが、「長谷川さんのように時間の制約がある人がキャリアアップしてこそ、みんなが“自分も頑張れる”と思える。課題はあるが、一緒に実現方法を考えていこう」という言葉でした。共に働く仲間が、明確に応援の意思を示してくれたことが、とても嬉しかったですね。
中川
それは心強いですね。
互いに支えあう意識が、制度を生きたものに
中川
今のお話にも繋がりますが、制度を検討する上では、もう一つ大切なテーマがあります。それは、“支える側の意識醸成”です。これまでさまざまな制度を整えてきましたが、制度をつくるだけでは十分ではないと感じるようになりました。本当に重要なのは、社員のみなさんがその意図を理解し、職場文化として根付いていくこと。『ベビーシッター費用補助』も、『早期復職支援金』にも、単なる制度以上の意味を込めてきました。「組織として支え合う文化を育てたい」——それが一貫した想いです。
長谷川
両立の当事者になって2年ほど経ちますが、理解は確実に進んでいると感じます。パートナーの出産を控えた男性社員が、「育休はどれくらい取るのか」「できるだけ早く業務を終えて、家族を支えたい」と自然に話している光景を見ることも増えました。私たちのように、できる限り仕事を続けたいと考えるパートナーがいる家庭では、家族の育児参画は不可欠です。男性側の意識も着実に変わってきているのではないでしょうか。
市原
私も、性別に関係なく組織の変化を実感しています。復職時に上司が「チームでサポートし合える業務配置にするからね」と、不在時のフォロー体制を整えてくれたことが本当に心強かったです。私の部署には同年代の両立者も多く、パパ・ママを問わず在籍しています。「子どもが発熱して……」と言えば「そのタスクはやっておくから、行っておいで!」と自然に声がかかる。事情を理解している者同士だからこその阿吽の呼吸が生まれています。
長谷川
一方で、経験がないと分からない部分もあります。だからこそ、両立者自身が率直に伝えていくことも大切だと思います。この会社は、相談すれば必ず耳を傾けてくれる。だからこそ、積極的に発信していきたい。その積み重ねがあってこそ、制度は“使える仕組み”ではなく“生きた文化”になるのだと思います。
市原
女性も男性も、現場も経営層も、意識は確実に変わっていると思います。時代は少しずつ、確実に前に進んでいると感じますね。
中川
お2人の話を聞いて、安心しました。
デンソーは“人の幸せ・成長”を経営の中心に据えています。女性に限らず、多様な価値観や個性を持つ一人ひとりが成長し、強みを存分に発揮すること。そして、社会課題の解決へと繋げていくことだと考えています。
時代が変われば、幸せの形も、成長の形も変わるはずです。だからこそ人事として、どうすれば社員がより良く働けるのかを考え続けていきたいと思います。