エンタメ技術を、社会を支えるモビリティ開発へ
新卒からずっと勤めてきたゲーム業界から、クルマという全くの異業界であるデンソーへ転職したのが37歳。私にとって、まさにゼロからのチャレンジでした。
もともとゲームが大好きで、幼少時には駄菓子屋さんのゲームコーナーに通い詰めていました。ゲーム業界に飛び込んだのも、そんな“好き”による巡り合わせがあったから。約15年間、ゲーム開発エンジニアとして、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)やリアルタイムCGなど、ゲームの要素技術の研究・開発に従事しました。ベテランと呼ばれる年次になった頃、ふと「この技術を応用して何かできないだろうか」と思ったことが転職のきっかけです。「自分は何がしたいのか」「何に貢献したいのか」「自分の強みを活かして、もっと世の中に役に立つことができないか」という気持ちが強くなっていた頃でもありました。
ちょうど同じタイミングで、前職の元同僚でデンソーに転職した方から、“自動運転の領域で、ゲームの要素技術が必要とされている”ということを教えてもらったのです。運転機能のテストやAIの機械学習の領域で、私のスキルが活かせるチャンスがあるとのことでした。自分が携わってきたゲーム技術が役に立ちそうだ、とワクワクしたのを憶えています。
事故経験が芽生えさせた、安全技術への強い使命感
自動車業界への挑戦を後押しした出来事として、24歳の頃、交通事故で重症を負った経験があります。友人と同乗していたクルマが事故に見舞われ、重傷を負った私は、脳脊髄液減少症という病気を併発しました。大きな手術とリハビリで奇跡的に動けるようになりましたが、3年ほどはめまいが止まらず、貴重な20代前半の時期を長期間治療に費やすことになり、本当につらい時期を過ごしました。「あのとき、安全製品がクルマについていたら、事故であれだけ苦しむことはなかったかもしれない」「自動運転の開発に携わり、悲惨な事故をなくしていきたい」。その強い想いが、私を新たなチャレンジに導きました。
クルマのことは全く分からなかったので、デンソーに転職後は数ある社員向け教材で勉強する日々を送りました。部署に丁寧に教えてくれる先輩・同僚がいたお陰もあり、クルマの知識を1から吸収していきました。当時は、「自分はバーチャル世界の専門なので、仮想環境だけに取り組んでいればいい」と思っていましたが、自動運転に携わる以上は実車を触って勉強すべきと思い、運転免許保持者でも合格が難しいテストドライバーのライセンス取得にも挑戦。運転が苦手だった私にとってトレーニングは予想以上にハードなもので、入社後非常に苦労した思い出の1つになっています。それでも、徹底した安全へのこだわりや、乗り味などのUXの完成度が追求されていることなど、実際に運転の勉強をしないと気付けないことがたくさんありました。運転技術の自動化を考えるにあたって、私の大切な経験となっています。
自分のスキルを応用できる手ごたえ
事故にあった当時は、自分が日常的にクルマを運転することになるなど思いもよりませんでした。しかし、テストドライバー試験で得た感覚を忘れないようにとマイカーを購入し、普段の生活に運転する機会を取り入れるぐらい、今やクルマは身近な存在になっています。こうして一歩ずつ知識を身に付けながら、今まで培ったゲーム分野での技術を活かし、自動運転に関わるシステムの開発を行っています。
ゲーム技術をクルマに応用するにあたり、一番注力したいところは、検証評価で安心・安全を保障する部分です。これが今後、自動運転開発における重要な切り札になるだろうと思っています。私が実際にデータ計測を行ったときのことを例に挙げると、現実の実験環境では10人のエンジニアが2週間かけて2〜3件のデータを取るのに対し、ゲーム技術を応用した仮想環境では、2週間で10万件のデータを取得することができます。現実環境を完全に再現できるわけではないため実用化へのハードルは高いのですが、膨大なデータ量が必要な自動運転開発において、省コストで効率的にデータが取得できる仮想環境での検証評価は今後も必須となってくるはずです。また、ディープラーニングを用いた新機能の開発や、CG技術を活かしたクルマのUI・UXの向上など、ゲーム技術を応用できる可能性はまだまだあります。これからも新しい取り組みに挑戦し続けていきたいと思っています。
自分の可能性を広げ、その先での壁を乗り越えるために
デンソーに入社して、ゲーム業界とは異なる文化を実感することも多々あります。前職では、“良いアウトプットを出せること”が最重視されていました。一方デンソーでは、“全員が理解し、納得し合うまで議論を尽くして、全体のレベルを底上げすること“が重視されます。その根底には、人の命に直結する仕事だからこその、安心・安全への強い責任感があるのだと思っています。日本の自動車業界が世界トップレベルであり続けてきたのは、この文化が影響しているのではないでしょうか。ただ、他業界が自動車分野に新規参入してきている中、より高機能なクルマを求める声が増えてきてもいます。これまでの実績に頼るだけではなく、変化に応え続けていく必要があるでしょう。
ときに立ち止まり、「自分の強みを何かに応用できないだろうか」と考えたり動いたりしてみると、今までの自分の延長線上にはなかった、新しい世界に巡りあうかもしれません。さらに、「何がしたいか」、「何に貢献したいか」という想いがあれば、自分のフィールドの外に出たときに大きな壁にぶつかったとしても、乗り越えられると感じています。そのためにも、自信を持てるような強みや技術を持ち、磨いておきたいと思います。強みや技術そのものに真摯に向き合い、ときには「本当にこれでいいのか」と疑ってみることも含めて、自分で考え、手を動かし、自らが汗をかくことで少しずつでも自信を付けていけると思っています。転職してから現在まで、自分の技術を自動運転に応用できそうなポイントを見付けたとき、面白さややりがいを感じてきました。これからも、事故のない世界を目指し、安全な自動運転技術を開発できるよう、技術と向き合いながら挑戦していこうと思います。
※記載内容は2022年時点のものです。