仕事を知る
新事業企画
新しい時代の「移動」をゼロから再定義。東大とタッグを組み、理想の社会を描き続ける
業務内容
技術企画部はどんなお仕事ですか?
技術企画部では社会にイノベーションを仕掛け、顧客価値につなげることで、持続的な社会課題の解決をめざしています。東京企画室のミッションのひとつに、2050年に向けた「モビリティゼロ」の事業化があります。モビリティゼロとは、東京大学先端科学技術研究センターと共同で進める社会連携研究部門のことです。将来に向けて会社の事業の柱をつくろうと考えた時、EV(電動車)や自動運転だけではなく、ほかの事業の可能性も模索すべきだと思っています。この研究部門では空間的移動を物理的にゼロにする技術を編み出すのに加え、新しい時代のモビリティをゼロに立ち戻って再定義することも進め、最終的に事業につなげることを考えています。
その中での神谷さんの役割
主な仕事のひとつが東大との社会連携研究です。生命が吹き込まれたロボットと人が共生する社会を考えている先生と、一緒に取り組んでいます。将来どのような世界を描けるのか哲学的な観点から議論した上で、具体的に社会に何が必要かを考え、形づくるという試みですね。もう少し掘り下げて説明すると、五感を刺激することで人の意識がどのように変わり、行動が変容するかという研究です。今は触覚作用を通じて日常に変化を与えることにより、人の行動が変わるかという実験をするための試作モデルを作っています。
これまでで一番印象的だったお仕事は?
モビリティゼロを起点とし、「2050年のモビリティコンセプト」を具現化できたことですね。現在、東京のクリニックで実証実験中の「瞑想ポッド」で、設計と製作は主に僕が担いました。期待される主な効果としては、ストレス軽減やリラックスです。人間は身体、精神、自我の3つが社会とつながっているという考えのもと、精神を良くするためのアプローチとして瞑想ポッドを作りました。ただ、瞑想効果だけではおもしろくないので、創造力を向上させることも考えています。たとえばエンジニアが新しい開発アイデアや特許案を考えたいとか、漫画家が構成を考えたいという場合にポッドに入ってもらうとします。デジタルデトックス的な意味を兼ね、30分ほど自分と向き合う時間を確保。ポッドから出た後にクリエイティブな作業をしてもらうという、そんな体験を編み出したかったんです。聴覚や視覚効果を変えるとどんな変化が起きるかや、どういう演出にするとユーザーの満足度が高まるかなどを、ヒアリングやアンケートで100人以上から聞き取り、改善につなげています。このプロジェクトは僕の裁量、役割としても一番大きな仕事でしたね。過去、いろいろなものづくりをしてきたんですが、試作しているうちになくなったり、うまくいったときでも僕が作業者の側面でしか関わっていなかったり。そのような道のりを経て、自分が先頭に立ってプロジェクトを進め、きちんと世に出せたことがうれしかったです。
働き方
職場環境や雰囲気はどんな感じですか?
多種多様なバックグラウンドを持つ人材の集まりですね。以前、自分で調べたのですが、室のメンバー十数人のうち、6割が生え抜き社員、4割が中途入社の人です。僕のような研究出身の人のほか、営業出身の人、デザイン部から来たデザイナー、他社から来たエンジニアなど、本当に一人ひとり、違いますね。われわれが進める新規事業を含め、2つ以上の強みを持っている人たちばかり。各人の特長が出た組織になっていると思います。年齢や役職、性別などに関係なく、意見を言い合える関係性もいいですね。今の部署では僕が一番下なんですが、対等にしゃべっていますし、それを悪く言うような人はひとりもいません。ものづくりや技術においては、みな平等だと思っています。
ワークスタイルについて
基本的に毎日出社していて、在宅勤務はほぼありません。打ち合わせの半分以上は社外の人たちとのもので、たとえば東大とはオンラインも含めて週3日ほどミーティングを重ねています。子どもが2人いて、1人目の時は2022年に1カ月間、育児休業を取得しました。当時、社内でも育休が認知され、なじんできた感じがあったので、取得していいかを上司に相談しました。そうしたら「長期的に見て子育ての期間は大事だし、その間は他の人がフォローするから全然かまわないよ」と言ってくれて。育休を取ることで自分の考えや行動が変わるのか、という点にも関心がありました。率直に言って、仕事よりも家庭の方がよほど大変だということに気づかされましたね。とくに、家事と仕事を両立させている人はすごいなと感じます。自分が今、家事や育児を妻に任せて仕事に没頭できているのは、ありがたいことです。
休日の過ごし方
デンソーは兼業が可能です。僕は、デンソー以外の仕事もしていて、全部で7社ほどで働いています。機能繊維を研究開発する会社を経営しているほか、医療系SaaSの社団法人を立ち上げました。他には地方行政で働いていたり、東京の品川・港南エリアを活性させる団体などにも所属しています。デンソー1社でのみ働けば物事を深く掘ることができますが、僕は社会全体を見渡す広い視野を持ちたいと思っています。今、勤めている会社をサイエンス、エンジニアリング、デザイン、アートの4領域に分類し、各社で働き方を意図的に変えています。それは未来をつくる観点からです。各方面でさまざまなつながりを持つことで、最終的にデンソーにも還元できると考えています。スケジュール的には大変ですが、単純に生きるのはおもしろくありません。ハードワークの方がよっぽど面白いなと思いますね。
就職活動
就職活動はどのように進めましたか?
子どもの頃からクルマが好きで、就職活動でエントリーしたのは自動車業界のみでした。クルマに恋したのは、小学2年の頃です。富士スピードウェイ(静岡県)というサーキット場が家からわりと近い場所にあって、父の知人からチケットをもらって足を運んだのがきっかけでした。以来、F1でアイルトン・セナを見て心を躍らせたり、高校卒業からの2年間は自分もプロドライバーをめざして活動したりしていました。最終的に夢は実現しませんでしたが、今度はエンジニアとしてクルマに関わりたいと思うようになりましたね。
どうしてデンソーを選んだのですか?
僕は日本車が好きで、日本代表として、日本のエンジニアとして世界で戦いたいと思ったんです。ところがトヨタも日産もホンダも好きで、すべての会社と一緒に仕事するにはどうすればいいかを考えた時、自動車部品を扱う2社が候補になりました。そのうちデンソーに決めた理由は、大学院時代にインターンシップでお世話になったこと。たった2週間でしたが、職場環境や仕事内容、社員の姿を見て、この会社ならやりがいを持って働けそうだと判断しました。今の仕事も、僕が大好きなクルマとつながっています。というか、クルマど真ん中のことをやっていると思っています。たとえば瞑想ポッドにしてもそうです。今、クルマの中で運転者以外がやることと言えば、寝るかスマホを見るかぐらいですよね。では未来を考えた時に、車内でどんな体験があればよりよい時間を過ごせるか。そのひとつが瞑想かもしれません。このような考え方で、他のコンテンツも練っている最中です。
仕事で役立ったスキル、入社後身に付けたスキル
子どものころからクルマに触れる機会が多かったので、クルマ全般の知識があり、「根本」を知っていることは武器だと思っています。もうひとつは「本物を体験する癖」でしょうか。親からは「本物を見ろ」と教えられて育ちました。建築物も絵画もクルマもそうです。その影響か、ものと対峙したときの違和感や、作り込みに目が向くようになりました。真贋を見抜く目が養われ、エンジニアとしての素養が備わったように感じていますね。入社後には、電力用半導体素子を使って電力を変換・制御する技術「パワーエレクトロニクス」をはじめ、ハードウェアの開発・設計に関するスキル、そして新規事業開発の全般が備わったと思っています。
キャリアアップ
これから頑張っていきたいこと
10月からは東大にも籍を置き、モビリティゼロのプロジェクト統括補佐を務めています。アカデミアからの科学的アプローチと、デンソーのエンジニアリングアプローチの双方によって、「生物学的な意味でのヒトを拡張したい」と思っているんです。現代はテクノロジーの変化が劇的です。AIが今後10年以内で人間の10倍の知能を持ち、20年以内には1万倍の知能を持つと言われています。このままでは人間はAIに歯が立たなくなるので、人間も身体を拡張することで進化を遂げなければならないと思っています。それも2次曲線的な進化が必要で、どこかでその変曲点をつくらないと「人が人でなくなってしまう」と危機感を抱いています。将来的には、アカデミアの側面から日本の教育を変えたいとも思っています。それには数十年かかるでしょうし、僕の人生のミッションだと思っています。人間の良さや本質は、ゼロイチではない「間の部分」にあり、そこが人間を人間たらしめる特徴になっていくのではないかと。このようなマインドを子どもたちに持ってもらい、日本、世界へと羽ばたいていってほしいです。人間のあり方を変えるきっかけづくりに貢献したいと考えています。